1、気づかないうちに残業代請求のリスクを抱えている介護事業主
弊所では、職員から残業代請求をされたという事業者様の相談が後を絶ちません。特に人手不足に悩まされている介護現場では、職員一人当たりの労働時間が長い傾向にあり、請求される残業代額が非常に高額となるケースも少なくありません。
毎月、労働時間に見合った残業代が支払われていれば、職員から残業代請求を起こされることはまれですし、もし万が一そのような事態になっても「未払い残業代はない」と十分反論できます。実際、ご相談にいらっしゃる介護事業所の役員の方の多くも、「うちではきちんと残業代を支払っているはず。こんな大きな金額の未払い残業代はありえない。」と口を揃えて仰ります。
しかしながら、ご相談を法的な目から分析すると、介護事業主側が不利な立場に立たされているケースが多いのが実情です。介護事業所は、気付かないうちに残業代のリスクを抱えているのです。なぜでしょうか?ここでは、残業代請求の相談で多く見られる、介護事業所の陥りがちなケースを解説したいと思います。
2、介護事業所における残業代請求の特徴
(1)夜勤時間帯の仮眠時間が休憩時間と評価できないケース
介護事業所には利用者が入居・宿泊できる施設も多くあり、そのような施設では夜勤帯を含めて二交代制、又は、三交代制により職員が稼働しています。現在の日本の介護業界は、介護事業所の約7割ほどで、16時間以上勤務する二交代制の夜勤シフトが取り入れられているといわれています。
夜勤シフトが組み込まれている場合には、職員が休憩を確保できるように、仮眠時間が設けられているのが通常です。しかしながら、この仮眠時間が、休憩時間といえるか争われるケースが多く見られます。あくまで休憩時間といえるためには、「労働から完全に解放されていた」といえる状態でなければならず、その判断は、仮眠中の臨時の職務の内容、職務の必要性が生じる頻度、場所的拘束性の程度などにより判断されます(最判平成14年2月28日、大星ビル管理事件)。介護事業所においては、夜時間帯の職員数を少なく配置している施設も多く見受けられます。そういった介護事業所では、夜間にトラブルがあれば少人数で対応しなければならない、一度呼び出されると長時間拘束される、呼出の頻度が多い、いつ連絡があるかも分からないので特定の場所を離れられないなどのケースが多く、休憩時間と評価されにくいのが実情です。場合によっては夜間帯のワンオペレーションが常態化している施設も少なくなく、そういったケースではほぼ休憩時間とは認められません。
こういった評価を受けないためには、仮眠時間中の対応に追われる必要がないように人員配置をしておく、適切な休憩場所を設置するなどの対処が必要です。
(2)変形労働時間制に不備があるケース
二交代制をとっている介護事業所では、変形労働時間制を採用していることが通常です。変形労働時間制を採用していると、特定の期間について、週の平均労働時間が法定労働時間以内であれば、特定の日や週が規制を超えていたとしても、残業代を払わなくてよいこととなります。
残業代を減らすために介護事業所で広く活用されているこの制度が、実はトラブルの原因となることが多いのです。変形労働時間制を採用するに当たっては、厳格な要件が定められており、労使協定や就業規則による定め、各労働日の所定労働時間の設定などの必要がありますが、これらの手続きや運用に不備があると、変形労働時間制の適用が否定される恐れがあるからです。
変形労働時間制が無効となった場合、未払残業代額は非常に高額になる可能性があります。例えば、シフトが16時間勤務の場合、変形労働時間制が適用されれば残業代が生じないケースでも、適用が否定されてしまうと、法定労働時間を超える1日8時間分が残業時間となります。これが最大2年間分 遡って未払いとなるのです。
変形労働時間制について特に不備が生じやすいのが、事前に各日の所定労働時間を定めておくという要件についてです。この制度を導入している介護事業所は、勤務表割りなどをきちんと作成して通知するなど運用をきちんと行う必要があります。

