問題社員対応

本章では、介護事業所内での問題職員にはどのような類型があるか、また各類型に照らした問題職員にいかなる対応を行うべきかについてご紹介します。

1、協調性不足型

問題職員対応のご相談の中でも特に介護事業主様から多くいただくご相談が、協調性不足の職員への対応です。介護事業主側から職員に業務の指示を行っても「利用者のことは施設長よりも私の方がよくわかっているから口出ししないでください」等と言って業務指示に従わない職員、利用者家族とトラブルになったにもかかわらず独断で対応し報告を行わない職員無断遅刻や無断欠勤を繰り返す等といった協調性不足の職員をそのまま放置してしまうと、職場秩序の悪化し、職員全体のモチベーションに悪影響を与えかねません。
このような協調性不足の職員がいる場合には、上司や施設長から、職場のルールや業務指示に従うことが職員の義務であることを指摘し、口頭で注意を行うべきです。あとでどのような注意を行ったかが分かるように、日時、場所、注意をした内容、注意を受けた職員の返答内容等を記録化しておくとよいでしょう。

口頭での注意に従わない場合には、書面(「厳重注意書」「業務命令書」等)による注意指導を行います。これでも改まらない場合には、懲戒処分退職に向けた対応も検討する必要があります。

ご相談いただくケースで、たしかに問題がある職員がいるものの、今まで行ってきた事業主からの注意指導が客観的に記録化されていないという場合が多くみられます。紛争化した際、裁判官は証拠から当事者の主張を認定します。万が一紛争化した際に備えて、上記のような記録をきちんととりながら、協調性不足の職員に対応することが重要です。

2、「ヒヤリハット」・介護事故頻発型

介護現場におけるいわゆるヒヤリハット事案は、転倒、転落、誤嚥・誤飲、介護ミス、食中毒感染症等様々なものがあります。この中で、介護ミス(例:おむつ交換時の骨折、湯温確認不足に伴う入浴時の火傷等)は人為的なミスによって生じるものです。このような介護ミスによるヒヤリハット事案や介護事故を頻発させる職員に対しては、どのような対応を行うべきでしょうか。

前提として、ヒヤリハット事案や介護事故が発生した場合の報告スキーム・報告書書式を事業所内で明確化しておく必要があります。そして、報告内容は5W1Hに基づく客観的事実及び本人が再発防止に向けてどのような対策をとろうと考えているのかを記載させるべきです(なお、この報告は、行政への報告対象となる事故に限らず、広く事業所内で発生したヒヤリハット事例及び介護事故を対象とするべきです)。このような報告書は、「誰がいつどのようなミスを発生させたのか」を把握するための資料となり、紛争が生じた場合の有力な証拠にもなり得ます。

そして、介護ミスによってヒヤリハット事案や介護事故が発生した場合には、当該職員に対し注意・指導を行います。同一事由に基づく介護ミスを頻発させる職員に対しては文書による注意指導を行います。それでも反省・改善がみられずに事故を発生させる場合には、懲戒処分や退職に向けた対応も視野に入れて検討する必要があります。

3、利用者虐待型

利用者虐待を行ったことが疑われる職員がいる場合には、事実関係のきめ細かい調査を行うことが肝要です。
事実確認の方法としては、①創傷の有無をはじめとする客観的状況の確認、②虐待を受けたと訴える利用者へのヒアリング、③虐待の場に居合わせた者がいる場合、他のスタッフや他の利用者等からのヒアリング、④加害者とされる職員へのヒアリング等が考えられます。これらの調査を通じて、「事実関係は存在するのか」「なぜそのような行為が行われたのか」について、多角的に検証するべきです。なお、介護施設はその特性上認知症等を患っている方もいらっしゃるため、供述の信用性判断は特に慎重に行う必要があります。

調査の結果、職員が利用者に対し虐待行為を行ったことが認定できる場合には、懲戒解雇も視野に入れた厳粛な対応を検討する必要があります。事実が認定できる虐待行為を放置することは、労務管理上の悪しき先例となるばかりか、「利用者虐待職員を放置する事業主」とレッテルを世間的に貼られてしまうというレピュテーションリスクともなり得ます。

4、「私はA事業所以外で働きません」型

使用者の配置転換権は、適材適所の人員配置を行い適切な労務管理を行うための重要な人事権のひとつといえます。

しかし、介護事業主において配置転換を行おうとした際、「私はA事業所の介護職として採用されたのだから配置転換には応じない」としてトラブルになるというケースが間々みられます。この際、「当該事業主に配置転換権があるか」が判断の分かれ目となることがあります。一般的に、我が国の労働法制は、配置転換については使用者に比較的広い裁量を認めています。ただし、当該雇用契約において勤務地限定の合意や職種限定の合意がある場合、使用者の配転命令権が否定されてしまうことがあります。

そこで、当初から勤務地を限定して採用する場合でない限り、雇用契約書における「就業の場所」欄には「A事業所 ※ただし、配置転換(転居を伴うものを含む)をすることがある」と明記し、雇用契約上勤務地限定の合意がないことを明らかにしておくことが事前のトラブル防止に役立ちます。また、就業規則上も使用者に配置転換命令権があることを明記しておくこともトラブル防止のために重要です。

このように雇用契約上配転命令権があることを明らかにしておけば、当該配置転換が権利濫用といわれるような事情(配転命令に業務上の必要性が存在しない場合、配転命令が不当な動機・目的をもってなされた場合、労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合等)がない限り、使用者は有効に配置転換命令を行うことができます。仮に配置転換命令に応じない場合には、雇用契約の終了も視野に入れた対応を検討する必要があります。