1、長時間労働による労働災害のリスク
長時間労働による介護事業主が抱えるリスクについて、これまで残業代請求のリスクを紹介しましたが、もう一つ気を付けなければいけないリスクがあります。職員が、長時間労働を原因として脳血管疾患や心疾患、あるいはうつ病などの精神障害などに罹患してしまった場合の労災リスクです。
現在の日本の介護業界は、介護事業主の約7割ほどで、16時間以上勤務する二交代制の夜勤シフトを取り入れられているといわれており、その割合も年々増加する傾向にあります。夜勤シフトは、業務は心身への負担も大きいうえに、シフトが少人数で組まれることが多くトラブルがあっても少人数で対応しなければなりません。そのため、長時間労働による健康被害のリスクを常に抱えているといえます。
2、労働災害の認定基準と法的な危険性
職員の発症した疾病の原因が、業務上の理由によるものだと認められると、労基署から労災認定がだされることになります。厚生労働省は、職場のストレスなど心理的負荷による精神障害に係る労災認定について、「心理的負荷による精神障害の認定基準」を策定しています。この基準の概要は、概ね以下の通りです。
・発症前の1ヶ月におおむね160時間以上
・発症直前の3週間におおむね120時間以上
・発症直前の2ヶ月連続して1月当たりおおむね120時間以上
・発症直前の3ヶ月連続して1月当たりおおむね100時間以上
・転勤して新たな業務に従事し、その後月100時間程度の時間外労働
(厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準」、基発1226第1号より)
また、厚生労働省は、身体的な疾患にかかる労災認定についても、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」を策定しています。
・時間外労働がおおむね45時間を超えると業務との関連性が強まる。
⇒加えて、、過酷な就労環境、ハラスメント等があると認定の可能性がより高まる
・発症前1ヶ月間におおむね100時間、又は、発症前2ヶ月間ないし6ヶ月間にわたって、1月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合、業務との関連性が強い。
(厚生労働省「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」、基発0507第3号より)
ひとたび長時間労働による健康被害であるとの労災認定をうけると、その後、介護事業主が職員から損害賠償請求を起こされたときに、この判断を180度覆すのは非常に困難です。労災による損害賠償額は非常に高額となるケースもあり、時として事業運営を脅かすほどの脅威となります。近時の裁判例では、介護老人福祉施設の事務管理室室長であった者が、脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血を発症し死亡したことにつき、長時間労働等の過重労働が原因であったとして、8000万円余りの損害賠償請求を肯定したケースもあります(和歌山地裁平成27年8月10日判決)。
3、長時間労働によるリスクを抑えるための対策
こういったケースを未然に防ぐためには、どうすればよいでしょうか。まずは、タイムカードや勤怠管理ソフトでの勤怠管理をきちんと行い、職員たちの労働時間管理を適切に行うことが重要です。とりわけ、近時の働き方改革により、特例の場合の上限規制について、残業時間を「2か月ないし6か月平均は80時間以内とする」ことが求められます。もし来月90時間の時間外労働が見込まれるなら、当月は70時間までにしておかなければならなくなります。また、単月では100時間未満に抑える必要がありますし、月45時間の時間外労働を超えられるのは6回までです。このように月ごとや複数月での労働時間の把握が必要となってくるため、より詳細な「時間外労働時間に関する年間計画」を作成しておくとよいでしょう。
また、上記時間規制に沿っていたとしても、労働災害が起こる可能性もあります。今後、より高齢者が増え仕事量が増大していくことも想定すると、いまの段階で抜本的な長時間労働の是正に取り組んでおくことが必要です。とりわけ、16時間以上勤務する二交代制の夜勤シフトを採用している事業所では、早急に体制のチェックをしていかなくてはなりません。具体的には、二交代制ではなく三交代制による無理のない夜勤体制の整備とする、人員の配置を見直し夜間帯の人員不足を改善する、仮眠室をきちんと設置すること等により確実に休憩時間を確保できるようにすることが大切であるといえます。

