介護事業主での職員同士の暴行事件について会社に対する損害賠償請求訴訟が提起された事案において、会社を勝訴に導いた例

本事例は訴訟提起段階から当事務所で被告会社を代理した裁判です。

(1)事案の概要

 訪問介護サービスを展開する被告会社の職員として勤務する原告と、同じく同事業主で介護士として勤める者(以下、「当該スタッフ」といいます。)との間で、勤務中に、事業所内において、暴行事件が勃発しました。喧嘩のきっかけは、原告が当該スタッフに対して発したミスを指摘する発言でした。当該スタッフはこの原告の発言を受けたことをきっかけとして、原告に対して暴行に及んでしまったのです。
 原告は当該スタッフの暴行により後遺症が生じたとして、被告会社に対し使用者責任に基づき1000万円を超える損害賠償請求訴訟を提起しました。

(2)争いのポイント

本件裁判では、使用者責任の有無が主要な争点となりました。
使用者責任とは、ある事業のために他人を使用する者は、被用者(本件では当該スタッフ)がその「事業の執行について」第三者に加えた損害を賠償する責任をいいます(民法715条)。判例は一般的に職員の仕事中の喧嘩において「事業の執行について」の要件を広く捉える傾向にあり(仕事中の喧嘩について使用者責任が肯定された例として、最高裁昭和44年11月18日判決等)、本件でも暴行が業務中の発言を端緒とするものであったことから、使用者責任が肯定されてしまう危険がありました。

(3)裁判所の判断

本件において、使用者責任は認められず(また別途争点となっていた被告会社の安全配慮義務違反も否定されたため)、原告の被告会社に対する請求は全て棄却されました。
判決では、「本件暴行は、被告会社の事業所内において同被告会社従業員同士の間で勤務時間中に行われたものであるが、その原因は、本件暴行前から生じていた原告と当該スタッフとの個人的な感情の対立、嫌悪感の衝突、原告の同被告に対する侮辱的な言動にあり、本件暴行は私的な喧嘩として行われたものと認めるのが相当である。」として、あくまで事業とは無関係な喧嘩であったと認定し、使用者責任が否定されました。

(4)勝訴のポイント

本件では、当事者の入社当初の経緯に遡って事実関係の調査・確認を行った上で、本件で使用者責任が成立しないことを使用者責任(民法715条)の趣旨に立ち返り主張しました。その結果、上記のように勝訴判決を得ることができました。